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東京家庭裁判所 昭和48年(家)7406号 審判

本籍・住所 東京都中野区

申立人 市川安子(仮名)

主文

婚姻並びに認知の届出錯誤につき、

(一)  本籍東京都中野区○○△丁目△△番地筆頭者市川安子の戸籍中

1  妻安子につき

婚婚事項中夫の氏名「下川丹治」とあるのを「国籍中国呉林生」と訂正し、

2  淑江につき

認知事項中東京都新宿区○町△番地「下川丹治」とあるのを「国籍中国呉林生」と訂正し、

3  夫丹治につき

同人の戸籍を全部消除する

ことを許可し、下記関連戸籍につき、所定の訂正を許可する。

関連戸籍の表示

除籍 東京都新宿区○町△番地

筆頭者 下川丹治

理由

1  申立の実情

申立人は中国国籍を有する呉林生と昭和三六年頃事実上結婚し、昭和三八年八月一四日両名の間に長女淑江が出生した。呉林生は実は密入国者であつたところから、申立人と婚姻届出をなすに際し、日本人である申立外下川丹治なる者の戸籍謄本を手に入れたのを奇貨として同人になりすまし、昭和四四年一〇月一日、下川丹治の戸籍を利用して申立人との婚姻届出をなし、さらに、同日長女淑江の認知届出をなした呉林生は、上記の事実について刑事事件として訴追され有罪の判決を受けている。

以上の事実により、申立人の戸籍中下川丹治との婚姻ならびに長女淑江の認知の各記載が法律上誤つていることは明白であるから、主文のとおりの戸籍訂正を求める。

2  当裁判所の判断

筆頭者市川安子、下川丹治の各戸籍謄本、呉林生に対する東京地方裁判所昭和四七年特(わ)第一三一九号出入国管理令違反被告事件、同刑(わ)第五五六九号公正証書原本不実記載、同行使被告事件の確定判決謄本ならびに申立人本人審判の結果によれば中華民国国籍を有する呉林生(一九二四年五月二二日生)は昭和二四、五年頃来日し、申立人は同人と昭和三六年頃同棲し、昭和三八年八月一四日両名の間に淑江が出生したこと、淑江は非嫡の子として申立人が出生届をなし、その旨の新戸籍が編成されたこと、呉林生は密入国者であつたため、日本人である本籍東京都新宿区○町△番地下川丹治になりすまし、昭和四四年一〇月一日東京都中野区長宛申立人と妻の氏を称する婚姻の届出をなし、かつ同日申立人との間の子市川淑江に対する認知の届出をなしたこと、申立人と呉林生および未成年者淑江とは夫婦親子として家庭生活を営んでいたものであるが、呉林生は上記刑事被告事件において有罪の確定判決を受けた後国外退去したものであること、の各事実を認めることができる。

3  そこでまず、申立人の戸籍中の婚姻事項の記載について考えてみると、申立人と呉林生との婚姻は法例一三条但書により、挙行地の方式たる日本民法七三九条の届出により成立すると解されるところ、前掲各疏明資料によれば、申立人と呉林生とは真実婚姻の意思があり、かつ、婚姻届出の意思を有したものと認められ、然るときは申立人と呉林生との婚姻は昭和四四年一〇月一日中野区長宛の婚姻届出により成立したものであつて、上記婚姻届出に際し、呉林生が上記日本人下川丹治の氏名を冒用したため、申立人の戸籍には下川丹治との婚姻事項が記載され、下川丹治の戸籍には申立人との婚姻届出事項がそれぞれ記載されるに至つたものと解される。かかる場合、申立人と呉林生との婚姻は上記届出により成立したものと解し、婚姻届出の表示記載を誤つたものとして取扱うのが相当である(昭和三七年四月二八日民事甲第一二五五号民事局長回答)。

4  つぎに、下川丹治名で行われた市川淑江に対する認知届も上記婚姻届に準じて、呉林生が法例八条二項により行為地法たる日本民法七八一条の方式に基づいてなした認知届出として取扱うことができると解すべきである。

5  以上の次第であるから、筆頭者申立人、同下川丹治の各戸籍中申立人の婚姻事項および長女淑江の認知事項の記載に錯誤があるものと認め、戸籍法一一三条により訂正すべきものと判断される。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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